三日間の留守の後、時空の扉へ(自宅へは戻らず)帰宅したかなたが最初に目にしたのは、「時空の扉」の前で、
ぼんやり座り込んでいたここのお姫様の姿だった。
『な、なんだ?』
とはいえ、このまま素通りもなんなので(というか、この姫ここの主なので)
「ただいま、せっちゃん」
と、声を掛けたが無視された。
「怒って〜〜〜いるんでしょうか?」
こくり
「なんで〜かな?」
「誰かさんが、出掛ける前に声掛けて、運動を実践しなかったから」
俺は隣近所のなにかか?
いやその前に。
「一応、「行ってきます」とは言ったんだよ?」
「聞いてない〜〜〜」
「いや、聞こえてなかった、だと思うよ、厳密には。熟睡してたし」 こんな感じ
「………と、言うわけで、俺は一応せっちゃんの耳元で「言ってきます。」と囁いてみました。でも、起きてはくれませんでした」
ちなみにこれは良くあることなので、嘘だと反論出来なかったせつなだった。
「なお、無理矢理起こすのが勿体ない位寝顔が可愛かったので、起こすことが出来ませんでした。ちゃんちゃん♪」
「ちゃんちゃんって一体……」
「で、どうする?(にっこり)」
「どうって……そんな言葉のあとのどこをどうつっこめっていうのよぉ〜」
「さぁ」
殆どの場合、せつなは口ではかなたに勝てない人間だった。(いや、はるかに位しかそもそも勝てないのかもしれないが。)
単純な頭の善し悪しならせつなの方が上なのだが、要領の良さというか性格の複雑さというか(もしくは単純さというか)、
とにかく世渡りとかなんとかのレベルが、せつなとかなたでは比較にならないのだ。
(例えるならばここの家の喧嘩って、「きつねとたぬきの化かし合い」、ではなく、「たぬきとハムスターの化かし合い」レベルなの
だ。(意味不明だな……))
「とにかく、寝顔が可愛かったっていうのはほんと。そんなわけなんで起こさなかったのは許してくださいね」
「寝顔だけね〜そう、寝顔だけは可愛かったのね。はいはい、どうもありがとう〜」
『棒読みかい。 ┓(´_`)┏ 』
とはいえ、元々かなたが寝ているせつな(とはるか)を起こしたがらないのは今に始まったことではなかった。
いや、せつなに限らず、どこにあってもあまり「眠る」ことの得意ではないはるかやせつなが気分よく眠っている時には起こさない
こと、これが「自分たちとは異質な空間」にあることで、ますます「休息」を忘れた二人に対する身内の間で交されている暗黙の 了解だった。
「ま〜ったく、そんなに怒らんでも……それとも、俺のいないときになにかあった?」
「な〜んにも……ございません」
「そう」
「第一、三日三晩不眠不休で仕事してたのよ。そんなんで何かあったら最悪よ!」
「はいはいそうですね」
とはいえ、この人達のいうそれって、見たまんまの意味なんだよな;
わかっちゃいるけど……なんだか、難儀。
「よし、じゃぁ寝ますか」
「はぁ?」
「三日三晩不眠不休、だったんでしょう?好い加減休みましょうや」
「そうかなぁ……別に疲れてはいないんだけどなぁ」
「まぁまぁ……」
でもやっぱりこの人眠気を誘うわ〜 なせつなの図
↓
「あれ?」
「ん?」
「海………行ってきた?」
「え?よく分ったね……気になる?」
「ううん、別に」
仕事で出掛けていたことは分っている。(ただ、それは分っていても黙って行かれてしまったのが面白くなかっただけ。)
第一、自分たちを置いて、かなたが一人で楽しむタイプでないことは、自分が一番よく知っている。
でも、ほんのり香る潮の香りがどこか懐かしかったのだ。
「立ち会いというか、調査がね、あったんだ。それでその立ち会いをしていたから、そのせいかな?」
「あぇ……なるほどぉ」
……とかやっているうちに、部屋へと着いてしまった。
「お茶煎れて〜」
「はいはい」
ところで、一歩でもこの空間に入ってしまえば、そこはごく普通のマンションの一室にも思える場所になっている。
この扉の在る場所の「本来の住人」であるプルートが、唯一とも言える本家プルートとの出会いの折りに、せつなに対し
「自分が留守の間のこの地はせつなの使いやすいようにすればいい」
と言った言葉通りに、せつながこの地に来てすぐに、この空間に自分の空間を作り始め、そこに更に、かなたを始め、身内の出
入りが始まったことが、この空間だけをぽっかりと、この地で異質な空間してしまったからである。
だが、家から出にくい仕事をしているんだなぁ、レベルにまでこの地に「Myスペース」を構築してしまったせつなの日常は、生来
の仕事もそんな状態に近かったことから、他の人間がこうなることほどには、この場所での生活にストレスを感じないようになっ ていた。
「あ〜〜〜〜」
「今度はなに?」
「あなたってまるで伝書鳩ね!」
「おい;」
言うにことかいてなんだそりゃ?
真面目に帰ってくるってことか?
そうか、そうかそ〜うなのか?
たまには鉄砲玉になってやろうかな……
いったらつまらん口論になりそうだが。
「違うのよぉ」
「なにが?」
「あなたはきっと、変な意味……というか、多分世間一般の意味に取っているんだと思うんだけど、私のはもっと直線的な物よ」
「よくわかりまへん」
みちるちゃんやまゆりも変だが……(言葉の使い方が)
この人も時々変なんだよなぁ……
移るんか?;この天然呆け……
いや、この人のはむしろはるかのわからん、の方か?
どっちにしても………みんな天然なんだな……あ……あの人だけちょっと違うか……(注:あの人=サターン様=……ほたる)
「だ〜か〜ら〜……つまりね、あなたって私に、色々外の事を教えてくれるじゃない?つまり情報を伝達屋さんってことね」
「正し〜い伝書鳩の意味の鳩の話ね」
「そうそう」
もっとも、今はそんなものもいないので、まゆりあたりが聞いたらちっともわからん会話なんだろうけどね、これ。
「んで、その伝書鳩になんか用でもあるん?」
「ううん。今はない」
でも時々、実際にせつなとせつなの実家との取り次ぎを行っているのがかなただった。
そうしてそんなかなたが、そのこと以上にせつなの為に頻繁に行っているのが、情報そのものは手に入っても、実体を手に入れ
機会の少ないせつなの元へ、外界から色々なものを持ち込んで来ることだった。
(まぁ、ぶちゃけ買い物係ということなのだが。)
そうしてそんなかなたがいるからこそ、せつなはこの暮らしに、より一層ストレスを溜めずにもいられるのだった。
「よしじゃぁ小鳥さん」
「こ、小鳥さん???」
「まぁまぁ、深く考えずに」
「はぁ」
自分が出入り自由な伝書鳩だとか言うのなら、こちらはむしろカゴの鳥……なのかなぁ、と思う。
ちなみにどんな感じだろうなぁ……
「そうかそうか、文鳥とかだな(^^)」
「はい?」
「いやいやなんでもない」
あぁそうだな、白い手乗り文鳥とか……可愛いかもしれない。
「なんかいつにも増して変な人だわ」
「おい;いつにもましてってなんだよ、いつにもましてって」
「いいえ、なんでもございませ〜ん」
「まったく……じゃなくって、今度表に遊びに行きましょう」
「え?」
ここは確かに普通の部屋のようだけれど、外界と全く同じにすることは出来やしないのだ。
だから時には表の空気に触れることも必要なのだ……と、自分はそう思っている。
そうして多分、それを適度に導くことを、自分は多分この場所の者たちから許されているのではいか……と、思う。
「ね?たまには良いと思うよ、外も」
「分ったわ……じゃぁ、海にでも行きましょうか?」
「あい分った」
「たまには二人でこっそりと……も、いいかなぁ?」
「はいはい、了解致しました」
たまには思い切り、外でのんびり致しましょう。
自由に羽根を伸しましょう。
ただ生きているだけでは、あまりにも生きにくい人なのだから……
おしまい
はるかとみちるの関係とはちょっと違う二人の関係です。
でも、結構普通(?)な二人です。
普通じゃないのに普通、それは時々なにかを乗り越えるにはとても難しい気がします。
でも、そんな色んなことを、(二人で)乗り越えてここまで来た人たちです。
それなりでもいいので、好きになってあげてくださいね。(^^)
ところで、下書きメモがあったとはいえ、あと数行!というところでデータが飛んでしまいました。(TT)
おかげで、同じ台詞なのに、書き直したら大分雰囲気が違ってしまいました。(苦笑)
けど、こちらの方が軽くて良いかも。
と、言うわけで少しでも楽しんで頂けたかしら?
そうでしたら長月、とても嬉しいです♪
以上、おまけの小話でした。
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