11:泣くなよ
で、結局いつのもことなんだけど、姫は強いな〜っというお話。
「か〜なた〜」
あれ、返事がない……(すでに家の中だけど)
「か〜な〜た〜〜〜〜っ。忙しいはるかさんが、わざわざ様子を見に来たんだけど〜」
だめだこりゃ。
というか、家の中にはいるはずなのに、なんだか不気味に静かだ……
「かなた!」
そんなわけで、思い切って、部屋の扉をがん、と開いたら……真っ暗だ……
「ちょっとかなた、生きてる?」
…………し〜ん…………
布団は盛り上がって居るんだが……しーん、ってなんだ、シーンって???
「ねぇかなた。返事くらいしてよ。せつなじゃないから、私は本気で怒るけど?」
「あぁもうはるかまで〜……頼むから静かにしてくれよ……俺はマジで死ぬぞ」
「そう簡単にかなたは死なないって……それより、一体全体どういう状況な、わけっ!」
と、言うわけでベットの中の布団にくるまり蓑虫状態のかなたから、べしり、っと布団を引きはがそう……として力負け。
普通にしていれば一応はこちらの方が強いのである。
「かなた、マジで具合悪い?」
「あぁもうこの上も下もなく悪いですね」
「…………ならそう言えばいいじゃん」
「そのまま返してやる」
二の句が告げない。うぅ
「そうじゃなくて、せつなに言えないほど具合悪いの?だったらただごとじゃないじゃん、それ」
「ただごとじゃないんだよぉ」
わぁ……かなたがほんとにひよっているよ。
「どうただごとじゃないん?」
「頭がくらくらします」
「貧血?」
「わからん」
「熱は?……なさそうだね……」
額はむしろ冷たいし。
「病院行く?」
「いかんでよろしい」
溜息
「せつな心配してるけど?」
し〜ん……って沈黙かい!
「せつな、怒ってるかもだけど?」
さらに沈黙かい
「せつな、放置してて平気?」
「じゃないかも……しれんなぁ……」
分っているならどうにかしろよ。
「お前、代理になっててくれ」
「おい!」
「いや、お前なら安心だし」
「なんじゃそりゃ?」
「なんじゃって……お前と俺なら似てるし。せっちゃんお前には懐いているし」
「でも私、かなじゃないし」
「そりゃねぇ……同じすぎても、お互い困るわなぁ……」
あぁもう言っていることがアホすぎですお兄さん。
「かな、真面目に変だ」
「なんだよその言い方は」
「だって、かなたのその言い方はやっぱり変です。ちょっと無理にでもいいから起きて」
「はぁ?」
むんず、と引っ張りあげる。
あぁ重たいなぁ……
さすがに普通にこれを担いでは歩けないや。(そもそも背丈が違うしなぁ。)
「どらどら」
と、いうわけで改めて額に手を当ててみる。
「微妙に風邪症状。&過労がそこに重なってるみたいだね、要するに」
「だから寝てればどうにかなるんだって」
「それはそうだけど、でも、みちると違って実力行使〜とか思い立ったら即行動〜とかをせつなは出来ない人なんだし、だった
ら、あまりだらだらして心配させてないでよ。せつなの性格上気の毒だ」
そうこれがみちるなら、(余程の状況でさえなければきっと絶対)有無をいわさずすっとんでくる気がするのだ。
でも、だめだと言われたらだめなんだ、と動けなくなる(もしくは意地になる)のがせつななわけで、だったら、心配かけないように
がんばるのも、そういうせつなの相手をしようとするかなたの立場では必要なわけで……
「まぁいいや。とりあえず、緊急で……ちょっと静かにしててね」
もう一度眠らせて、とりあえず掌越しに「気」を送る。
自分とかなたはあれこれ似ているので、血液型が合っているのと似ている感覚なのかな?
ともかくこういう部分の相性がとてもいいので、比較的効きは早いと思うんだけど……
「ねぇかな……私が言うのもなんだけどさ、あまり無理しないでいいと思うよ……かなたが一番したいことだけをしていたってい
いと思うよ……」
「でもなぁ……」
「今更、誰も・なにも気にしないよ……」
自分たちのために、自分の生き方をあれこれねじ曲げてくれているのかもしれないけれど、それがかなた自身の負担になってい
るのなら、そんなことをされたってちっとも俺やせつなが嬉しくないってこと、分っているのかなぁ……この人は。
「お前の気持はありがたいけど、でもその手の話は、とりあえずどっかに避けておいてくれないか?お前が思っていることは、俺
にとってはけじめというか……まぁそんなようなものだから、あまり妥協はしたくないんだ」
「かなも、相当意地っ張りなんだね。ようは」
「人生意地の張り合いです」
「やだなぁ……それ」
「意地というか、妥協とけじめは共存させないとまずいだろ?」
「それはまぁ、そうだけど……」
あ、でも会話が結構進んでいるので、ちょっとは具合、良くなっているのかな?
ならまぁいいか……
「でも、せつなにはちゃんと話そうよ」
「微妙だ」
「なんじゃそりゃ」
「言ってもいわんでも、なにかこう……微妙だ……」
「あぁもうぉ〜じれったいなぁ……せつな〜」
「え?なに?」
あぁそんな気軽に呼ぶなって、と倒れたままだが大きな溜息をつくかなたの腕を、逃がさないためにかぎゅうむと掴む。
「かな捕まえたよ〜。どうする〜?」
し〜ん……ってこっちも無言かい?
あぁもう……疲れるなぁ……
「ねぇせつな、かな風邪なんだとさ、どうする?」
「どうって……」
で、やっぱりし〜んとしてしまう。
「帰ろうかなぁ……道は開いてあげたことだし、あとは二人で、適当にやってくださいな」
「逃げるな」
「逃げちゃ駄目」
一斉かいな……
「じゃぁもう仲直りしてよ。二人して黙りじゃぁどうしていいか分らないよ」
「喧嘩なんかしてないし」
「そうそう、ちょっと違うし」
「仲良いね……」
あぁその間で俺って一体……
「とにかく、かなたは病院に行く気がないならここでもいいから、ちゃんと寝てなさい」
「せつなは、そういうことだからちょっと待ってなさい。この我が儘は、一度言い出したらそうそう意見を替えないから」
ところが、
「いやいやいや〜」
ここでいきなり叫んだせつなに、はるかとかなたが顔を見合わせて首を傾げ合う。
「ど、どうしたのかな?この子?」
「さ……さぁでも……なんかこう次の展開が……分るような気が……」
「どうしたの?せつな。なんか言いたいことでもあるの?」
「風邪なんかで死なないと思うわ」
まぁねぇ今時はねぇ……でも、それでも風邪が無くならないのはこりゃもう仕方がないというか、なんというか……
「でもでも、寂しいと私、死んじゃうんだから!」
しかし、そんなせつなの台詞に、はるかはぽかん、となり、かなたは倒れているのに、「やっぱりなぁ〜」という顔で困った表情で
額を抑えた。
「とにかく、無視なんてひどい!ひどいひどいひっど〜いっ!!」
しかし、そんなせつなに、
「あぁもぉ……やっぱり……」
と、かなたがぽそりと呟いた。
はるかは、「自分と同じだね」というのもあれだし、「なにしてんだか」と怒るのもばかばかしくなり、
「命令ですかなた。これはあなたじゃないとどうにも出来ません。だから、責任もってこの状況をどうにかしなさい」
と、かなたの肩をぽんぽん、と叩いたのだった。
「あ、あのなぁ……そんな時に命令とか言う言葉を使うなよ……大体風邪なら風邪で移したらまずいじゃん……」
ったく、やなこというよなぁ……こっちの王様は。
あぁそしてそしてあっちの姫は姫で咎が外れちゃうともぉ……全然駄目なんだよなぁ……
「あぁもういい!そこでゆ〜〜〜〜っくり休んでてちょうだい。でも大丈夫、仕事はちゃんとしてま
すから!」
そんでもって俺が行くまでこの人、寝ない食べないで働くんだろうなぁ……ほんとに困った人だ……
「せ〜つな〜、そんなに拗ねるよ。かなたが凹むぞ〜」
「知らない知らない知らない。どうせ私はなんにも出来ないし!なんの役にも立たないし!だから私なん
かいないほうが良いんだろうし!」
あぁだめだ完全に拗ね返っているよ。
「でも、それもこれも全部事実なんですもの」
わ〜そう来るか〜
と、兄妹が二人が揃って溜息をつく。
難儀だ。
みちる以上に難儀な性格かもしれない。
だって妙なところで頑固というか……意地を張る人だからなぁ……
「あんまり自分を卑下するなよ」
「だってほんとに、私は結局なんにもしてあげられないんですもの」
あぁ困ったよ……かなたがいかないなら、俺がいますぐ飛んでいきたいですよ……
だってこの子ほっとけないし……
あぁえぐえぐ泣いてるし……あぁもぉ〜
「泣くなよ」
が、ここでそう呟いたのはかなただった。
気付けばもっそり起きあがって、まだちょっとくらつくらしいが(大丈夫か?と、ちょっとはるかも心配になったのだが、根性は座っ
た人なので、こうなると気力でどうにかしそうなタイプである。)それでもそう言ったかなただった。
「泣いてなんかいないわよ」
「もぉいいから……そこで一人で落ち込ませてるのは、俺も本意じゃないし」
「でも、別に私なんかいないでも平気でしょう?だったら良いわよ。心おきなく養生してて」
あぁなんか泥沼ですよみちるさん……俺、さすがに疲れてきた……と、どっちにも手出しの出来かねるはるかは、間でほとほと
参り始めていた。
なによりかにより、今せつなが欲しがっているのはかなたの言葉なり誠意(?)なのだろうから……自分の出る余地も価値もな
い気がするのだ。
「とりあえず、私があっちに行ってこようか?」
けれどこのまま放置、というわけにもいかなかったので、とりあえずかなたにこっそりそう問うてみたはるかだった。
「いや、いい」
「でも……」
「いい。お前に面倒かけるわけにはいかん」
あぁそうなんだ……ふむ……(不覚にも(?)こういう時のかなたはかっこいいなぁ、と思ってしまったはるかだった。)
「せつな」
「なに?」
「おいで」
「はぁ?」
「いいから、とりあえずこっちに来てください」
「いや」
あぁなんつ〜かこう、我慢比べって奴か?
でも、せつなにはかなたでやっぱり正解だったのかもしれない。
これでもかな、気が長いからなぁ……
「とにかく、そこで一人で泣いてるくらいなら、今すぐこっちへ来なさい」
「いや!」
「いいから来い!」
と、ここで再びし〜ん、としてしまったので、
「かな、どないするん?」
と、聞いてみたら
「しらん」
あ、あらら……珍しくかなが怒っているよ……(さすがに具合良くないから短気決戦にしたかったのですね。)
「冷たいよ、かな」
「気にするな。第一、こうなったらこうなったであとはせつなが来てから考えるしっ」
「来るかなぁ?」
「来る。絶対に来る。ただお前は危険かもしらんから……帰るか?」
「き、危険〜?」
なんじゃそりゃ?
と、思った瞬間、
「来たわよ!」
と、思ったはるかの背後に、半泣きのせつなが立っていた。
「ありがとう。来てくれて」
「な〜にが爽やかにありがとうよ。も〜ぉっ!!!」
「はいはい。俺マジで具合悪かったのね。ごめんごめん」
止めるべきでしょうか?
去るべきでしょうか?
どうすべきでしょうか?
結論:
去るか。
さっきかなも、帰って良いって言ってたし。
「ねぇねぇお二人さん、帰るね。そろそろ」
「え?」
「いいの、いいのよはるかはいても」
「でも、邪魔そうだし。あとは二人で解決してください」
それでも、自分がいた方が間が持つ、と言うより平衡を保てるから、ということなのだろう、自分に一緒に居て欲しいと掴んだ腕
を外してはくれないせつなの頭をぽふぽふと撫でる。
「ね?」
このままの状態では、今二人の間にある問題は解決しないように思えたはるかだった。
なにより、どちらの味方にもなれない自分がこのままここにいることで、二人っきりで話し合いをする機会を逃してしまのは、とて
も勿体ないことだとも思えた。
「じゃぁ」
だからにっこり笑顔で手を振りながら去ってしまったはるかに、せつなががっくりと肩を落とす。
かなたはそんなせつなを見ながら思わず苦笑。
「ねぇせっちゃん……」
「ん〜?」
「来てくれてほんとにありがとう」
「え?……えぇ……」
「ちょっとこっちに来てくれませんか?」
そう言うと素直にこちらに近寄ってくる姿は、先程とはうって変わって随分としおらしい様子だった。
けれどもこれがこの意地っ張りで頑固な姫の素顔なのだ。
ただ、先程の言葉のはしばしにもあったように、なにがしかの不測の事態が起こったときにどうしても、自分の狭すぎる行動範囲
や制限のある生き方に気付き(気付かされ)そのたびに落ち込んでしまう人でもあった。
でもその優しさが不憫だった。
だからそれを感じて欲しくはなくって……
なのに完璧には……それを阻止することが出来ない自分がとてももどかしく……
「ごめんなさい」
やっぱり、原因は俺の方……なんだろうな……
「ううん、いいの……それより、具合は大丈夫?」
「あぁ……大分いい感じ……」
正直なところ、はるかが来てくれてラッキーだった……
なによりかにより、物理的に即効性があるからなぁ、あれの傍にいるとかなんとかは……
「無茶しないでね……」
「はいはい……大丈夫」
多少のことは仕方がないとしても、それ以上のことはなかなか……出来ないんだよなぁ……
「良かった……」
「この位で死にませんから」
「当たり前よぉ」
だってほら、こんなに心配してくれる人がいるしね。
「そういえばせっちゃん、無理矢理呼びつけちゃったけど、帰らないで大丈夫?」
「うん、留守はカロンに頼んで来たから」
「じゃぁ明日には復活しますんで、今夜はこのまま……ここにいて下さい」
やっぱりいないと不安なので。
あなたのことも……自分の気持も。
そうしてそれだと、やっぱり余計に落ち着かないので……
「大丈夫。言われなくても、ここにいる」
あなたの傍にいたいから。
「あ!そうだそうだ……」
「泣くなら……俺のいるところで泣きなさいね」
「……馬鹿」
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と、いうわけで、夫婦げんかは犬も食わない、という感じで今回のお話はおしまいVおしまいV
どうでしたか?これでとりあえず完結です。
仲直りしたから完結です。
でも、舌の根も乾かぬうちに、きっとまた喧嘩になっちゃうのね、この二人は。
けれども今回のお話は、どこかでちょっぴり書きたかったけど、
どこでどうしていいのか分らなかったので、そのまま放置、
になっていたお話だったんです。
いえ勿論、キャラも崩壊してますし(=せつなのことね。自覚はあります。)
わけわからん、と思う人もいるんですが(=かなたね。常連さんじゃないと受け入れられないかとは思います。)
でも今更「この関係はチャラにしましょう」ともいえない感じになってます。
と、言うくらいには書いてます、思えば5年か……(かなた氏99年頃からいるので)
一度も苦情がないのは、もう呆れられているのか、そもそもせつなファンがいないからどうでもいいのか
その他の意見からなのか……は分らないんですが、
それでも、はるみちかきらしからぬはるみちかきの自分には、
余程王道に乗っかったような雰囲気であり、かつ、
「セーラー戦士」というものを考えた場合にそこに「恋愛」という要素を含めた場合に
一般的・客観的に考え得る諸々の問題や悩みを抱えていることに
自分自身が一番気付かされるのがこちらの二人です。
だからこれからも、どんな水面下に落とそうとも、
書ける間は書いていきたい二人なの……です(^^)
PS:案の定悩んでうろうろしていたら固まってしまった(苦笑)
ラストおかげで書き直したらなにか甘さが上乗せになったしまったのでした。
ちゃんちゃん
完読ありがとうございました。
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