「多分ね。それにかなも行ってるし……」 「じゃぁ平気ね♪」 大晦日のせつなは、時空の扉で、一年の締めくくりと一年を始めるのに大切な仕事に就いてい た。 「ほたるとまゆりは、大丈夫かしら?」 「あの二人でやばいような物が来てたら分かります」 「それはそうね」 ……と、言うわけでみちるの大切な子供達(ほたるとまゆり)は、大掃除だけを済ませると、さっ さと地球を離れ、初日の出を見るために土星へと遊びに行ってしまっていた。 おかげで今日のみちるは、早々に仕事を済ませたはるかと共に、地球で二人こっきりの留守番 業務(笑)に就いていた。 「ねぇ、私たちもどこかに行きましょうか?」 「え? せっかく帰ってきたのに?」 「天王星にまで行こうとは思っていないわよ」 「もしかして、ほたるもまゆりもいなくて寂しいの?」 「そんなことないわよぉ」 留守番役の責務として、お正月のお節の準備などが済んでしまうと、普段賑やかな子供たちに 囲まれているみちるが、思わず寂しくなってっしまったのかそう言い始めたことに、「こういうとこ ろが母親なんだろうなぁ」と、そんなみちるを微笑ましく思いながらも、「なんとなく妬けるなぁ」、と も思ってしまったはるかだった。 「ねぇみちる、みちるががどうしても行きたいところがあるのなら、別に行ってもいいんだよ。俺 は」 「ううん別に無理して行かなくてもいいのよ……はるかがいてくれるなら、私はそれで」 「そう?」 いつも騒がしいほたるやまゆりに囲まれていることを考えれば、不思議な位に静かな時間。 それは、この家の広さを、やけに意識させるものだった。 でもいつもとは違う静けさの中に、今日ははるかが共にあること。 それは、みちるの心を、いつもをは違う暖かさで満たしていた。 「よし、せっかくだから、はるかに甘えてしまおうかしら?」 「どうぞ。たまには、お母さん役をお休みしても良いよ」 「いやん。私はいつでも女の子のつもりよ♪」 それはどうかなぁ〜……と、ついつい考えてしまうのは、長年連れ合っているはるかゆえなの か。 でもまぁ良いか……と、はるかは自分にもたれかかるみちるの肩を抱き寄せた。 「そう言えばさ、地球時間で考えるから今日は大晦日だけど、それ以外の周期で考えたら違う んだよね。初日の出とは」 「もぉ、それってあんまり、面白い発想じゃないわよ」 「でも、それが真実なんだよ」 そりゃぁ確かにそうだけど……と、頭では分かっているつもりでも、やっぱりなんとなく納得出来 ないみちるだった。 だからみちるは、 「でもねはるか、そんなことを言っていたら、私たちの惑星はどこも、なかなか新年にならないわ よ?それじゃぁつまらないじゃない」 と、反論してみたのだった。 「そうだね。自転周期だけなら地球より早いけど、太陽の廻りをって考えたら、一個隣に行く都 度年数(地球基準)が増えるから、結構おそろしいかもね」 ちなみに、土星で約30年、天王星で85年、海王星が165年、冥王星が248年である。(一年 は地球基準) つまり地球の千年も、冥王星なら4年かそこらと言うことである。 「ねぇはるか、でもどうしてほたるたちは、わざわざ土星にまで行ってしまったのかしら?月くら いにしておけばもっと良く初日の出が見られるのに」 「それは、たまたま馴染んだ土星で初日の出をみたかったってだけで、特に深い意味はないん じゃないの?第一、あいつらの場合、そもそも普通の視力でみちゃいないんだろうし……そうし たら、それはそれで、それなりに面白いんじゃないのかな?」 「面白い?」 「そう……ってみちるも知ってるでしょ?」 ここで見る日の出と、自分たちの惑星から見る場合の日の出はまったく異なった風情のもので あることなどとうに知っているだろう、と言う顔で自分を見つめるはるかに、みちるはぺろりと舌 を出し、微笑んだ。 「初日の出には初日の出のパターンがあるのかと思ったのよ」 「パターン???」 「そう。いつもの夜明けとは違う「なにか」があるのかしらって」 しかし、普段どちらかといえば感覚的に物事をとらえるみちるにしては珍しいこの言葉に、かえ って、みちるが何か特別な答えを自分に求めているのだろうか?と考えてしまったはるかだっ た。 「そうだなぁ……」 「ねぇ、なに?なに?なにがあるの??」 だから……そんな期待の眼差しで見られてもなぁ……と、はるかは更に考えた。 「しいていうのなら……」 「言うのなら?」 君は子供かいな……と、思わず苦笑してしまったはるかに向けられるみちるの瞳は、ほたるや まゆりが何かを問うている時のようにきらきらと輝いていた。 (確かに……こういう顔は大人ではないな……うん。) 「しいていえば、いつもより陽の気に満ちているってことかな?」 新年=新しい時が始まる時。 つまりは人々の気持ちが、一斉に新しい時の幕開けに対する、期待や喜びに満ちあふれるこ の日、太陽系を照らし導く太陽は、そんな人々の期待や喜びに応えるようにいつにもまして強く 輝くのである。 「へぇ……」 「でも多分、地球ではそのことが分かりにくいんだろうね。だってここは普段から暖かい場所だ からね。ただ、ここを離れた他の場所では、この日の太陽が、いつも以上に、太陽系全体に強 いオーラを放っていることがよく分かるんだ」 「ふーん」 「 ――― と、こんな答えでOKですか?」 「えぇ。でもはるか、まるで理科の先生みたい」 「お、おいおい(^^; 」 そうしてはるかは、そんなみちるの言葉に困った顔になりながらも、にこにこと微笑みながら自 分の腕の中に潜り込んできたみちるを、静かにそっと抱き締めた。 なんにせよ、みちるの機嫌が良いことは、はるかにとっても嬉しいことだからである。 「でも……そういう現象って自然本来の姿なのかしら?それとも……」 「昔からそうだったんだと思うよ。ただ、昔はそのことに気付かなかったってだけで。 それに、そういうことはあんまり難しく考えない方がいいよ。すんごく難しいしことだし、俺たちが 考えるとやたらにややこしい気持ちになるだけだから」 神の領域に人が踏み込むことはいけないことだ、と考えられていたことに次々と近付いていった 人類も、現在のシステムに世の中の流れが変わってからは、必ずしもそれ以前に強く求めてい たことをやたらに求めることはなくなっていた。 人類の発展の形態そのものが、変わってしまったからである。 しかし、そんな時代になった今も、はるかたちセーラー戦士が持っている神にも等しい力は特別 で、ただの人間には、決して踏み込めない領域にあるのだった。 だが、そんな力を有している当の本人たちは、色々良な意味で普通ではないが、それでも普段 は、ごく普通の感情をもったただの人間のなので、時折、そんな自分たちの持つ力や在り方 に、脅威や疑問を持ってしまうことがあるのだった。 でもそんな不可思議が、自分たちを囲む現実なのだ。 だからその現実に疑問を抱いてしまうことは、それはそのまま、自分の存在自体を否定するこ とになりかねない。 「はるかって、前向き?」 「いや、考えすぎるといけないなぁってことは色々あるんだなぁ、と」 そもそも、どんなに世界が変わったからと言って、すべての感情を持つ生き物が、まったく疑問 を持たない世界なんてものは無いはずである。 だが、出来る限り多くの生き物が、平和に・幸せに・安全に暮らせる世の中というものが、もっと も幸せな世の中なのだろう、とはるかは考えていた。 つまり、戦争や貧困などの暗い影のない、この星に生きとし生ける物たちがみな、銀水晶という 平和の光りに平等に満たされている今のこの世界は、限りなくその理想に近いということであ る。 「分かったわ!つまり、それがはるかの格言なのね」 「お、おいおい」 「なら私も、それをみちるちゃんの、座右の名としておくわ」 「だからさ……」 (……ま、いっか……) とはいえ、「自分よりずっと前向きなみちるに感心されるっていうのはどうんなんだ?」 と、思いつつも、やけにご機嫌なみちるに、つられて幸せな気持ちになってしまったはるかは、 改めてこう思ったのだった。 『自分を照らし導く太陽は、ひょっとしたらみちるなんじゃなかろうか?』……と。 「そうだわ!ねぇはるか、やっぱりちょっと出掛けましょう?」 「どこへ?」 「海よ♪水平線から昇る朝日はとっても綺麗よ」 「あぁ成る程。それはいいかも」 「ね?そうでしょ?」 みちるが唐突なのはいつものことではあるのだが、こんな唐突もたまにはいいか、と思ったはる かだった。 「せつなにも見えているのかしら?」 「この光りが?」 「うん」 「せつなは、俺たちには分からなような新しい時の力を感じているんじゃないかな?」 そうしてそれは、おそらくそれを安全に導いている、せつなだからこそ感じる力なのだろう。 「そうね……せつなにはせつなの感じ方があるのよね……だから、私にも分かるのかしら……」 ここは海。 この地球上で、もっとも自分に近しい場所。 だからみちるは、その海が、朝日を浴び、新年の喜びと新たな力に満たされているのを強く、強 く感じていた。 「あ、みちる」 「うん?なに?」 「今年も宜しくお願いします」 さすがに明け方には、常春に等しいこの世界でも寒いことから、砂浜に腰を下ろし、 大きなストールにくるまりながらはるかと二人で初日の出を眺めていたみちるは、自分を背中か ら抱き締めていたはるかに、耳元で突然そんなことを言われたことで、なにやらおかしな気持ち になってしまったのだった。 今更と言えば、今更な気もするが、それでもこんな風に言ってくるはるかがなんとなく微笑ましく (面白く)思えたからである。 「な、なんで笑うんだよ」 「だってはるかが、あらたまった顔で、そんなことを言うから」 「じゃぁもう言わない」 「いやよぉ。言ってよぉ」 「やだったらやだ」 「どうしてぇ。年賀状もないのに、新年の挨拶もないのぉ」 い、いきなり年賀状?と思いはしたが、そう言えば、出会ってこの方、出した記憶がないな、と思 ってしまったはるかだった。 「でも、年賀状はみちるにも貰ったことないぞ」 「だって、恥ずかしいものぉ!それに、はるかのお家は仲が良いから、葉書じゃみんなに見られ ちゃうものぉ」 「つまらないなぁ」 「だ、第一、私たちって、出会ってからは別々な時期の方が短かったじゃない」 今の別々は、単身赴任とお留守番なだけで、はるかの帰える家はみちるのいる家である。 だから確かに、年賀状を出すのは確かにおかしいことかもしれない。 「でも、いっぺん位もらって見たかったなぁ……」 「それは私も同じことよぉ」 そこではるかはしばしみちるの肩に顔を埋め考えた。 いかにしたら、みちるから年賀状をもらえるのかなぁ、と。 「よし。家帰ってたら書くぞ」 「え??????」 「書くったら書く」 「はるかさん?」 「俺が書いたらみちるもくれるんでしょ?」 「はぁ……」 「ついでだからみんなにも書こう。うん」 「はるか……手紙書くの苦手じゃなかった?」 「 ‘ あけましておめでとう ’ 位は書けるよ」 それはまぁそうか…… 「でも、おめでとうだけじゃ寂しいわよ?」 「じゃぁみちる先生が、なんか絵を描いてね」 「へ???????」 「お前絵描くの上手いじゃん?」 (注・うちのみちる絵描きさんじゃないです。) 「で、でも……あら?そういえば今年って…………羊さん年だっけ??」 「た〜しか……そうじゃん??ほら、羊さん、かわいいよ?みたいなぁみたいなぁみちるの描く羊 さん」 なんでこの人……時々急に子供みたいなこと言い出すのかしら……? でも、それってほんと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜にたまのことだから、叶えないわけに も……いかないのよね……と、みちるは自分がいいとも悪いとも言わないうちから、楽しげなは るかの様子に、すでに負けてしまっていた。 「でも待って!いくら字がはるかでも自分で絵を書いてしまったら、はるかからもらった気がし ないわよ?はるかだってそうでしょ?」 「でも、俺絵なんかかけないもん」 「じゃぁいや。つまんないもの」 「だって、描けない物は描けないもん」 堂々巡りです、これでは……… 「分かったわ、じゃぁこれで妥協してあげるわ」 「なに?」 「写真撮らせてね、写真。で、そこにはるかのサインと私へのメッセージをいれてね」 「………………みちる、俺はなに?」 「はるかよ」 違う、そうじゃない。 そんなもんもらって嬉しいのかと聞きたいんだ〜〜〜 と、思うはるかの言葉を聞く間もなく、みちるはにこにこと、持っていた鞄の中から、超小型のカ メラを取り出した。 「はいはるか、笑って」 しかし、今も昔も写真は嫌いなので、ちょっぴり困った顔になってしまったはるかだった。 「もぉ、はるかってばだめよぉ、笑ってくれなきゃ困るのぉ」 「お前は……人の苦手なこと知ってていってるだろぉ」 「いいからいいから」 (無視されたよ……) 「ほらほら、はるかさんの大好きなみちるちゃんがここにいるわよ〜笑って〜」 (俺は馬鹿か???????) しかし、ペットモデルか子供モデルに付き添う保護者の用に、必死なみちる姿にたまらず吹き出 してしまったはるかだった。 「それは笑いすぎ〜」 「だ、だってさ、普通そこで踊らないって」 こいつ本気で面白い……面白すぎる…… 面白すぎるから(恥ずかしすぎるから(?))あんまり他人には見せられないけど。 「もぉ〜はるかのいじわるぅ〜」 「ごめんごめん」 そういって、座ったままのはるかの肩を、その正面で腰を屈めてぽかぽかと叩くみちるをはるか はきゅうっと抱き締めた。 「ほんと、みちるって飽きないよねぇ」 「あのねぇ……まぁいいわ」 パシャ☆☆ 「お前は〜そこで撮るかぁ〜」 自由だった右手でシャッターを下ろすみちるに嘆息。 だがみちる曰く、 「だって、今の表情がほしかったんだもの」 ……だ、そうだ。 「でも、今の絶対撮れてないって」 「甘い、甘いわよはるか。今のカメラの性能は大昔とは違うのです〜」 「馬鹿だね……かなり、馬鹿だね」 と、土星から戻ったほたるは二人の初日の出中の出来事とその結果を前に盛大なため息をつ いた。 「だってね、だってね」 「だってなに?」 だが、フォローしてくれる者のいないみちるは、困った顔で次の言葉を探してうなるばかりだっ た。 「う〜〜〜〜〜〜〜ん……」 ちなみに、片割れ(はるか)はそんな二人を置いて、朝のような昼の様な食事の支度をしていた りする。(お正月位やらないとね。) 「ほら馬鹿だ〜」 「ほたるちゃん、はっきり言い過ぎだよ」 「まゆり、そう言ってるってことは、まゆりだってそう思っているんでしょ」 まゆり、黙して語らず。(そして熱いお茶など飲んでいた。) 「……まぁいいか。あなたちがあほだってことは、つまり人類が平和だってことなんでしょうから ねぇ」 「もぉ、ほたるって、どうして私にばかり言うの?はるかにも言ってよぉ」 「パパは、そういう意味では常識人だと信じているもん」 ほたるのその言葉にみちるは、し ―――― ん、となり一言。 「ひどい」 と、返した。 「でもまぁあ、そうでなきゃみちるちゃんじゃないと思っているけどね、あたしは」 だが、そんなみちるにほたるはなかなか厳しかった。 『あまり、あまりフォローにはなっていない〜〜〜(みちるの心の叫び)』 「あぁも〜〜、ね、ママそろそろ着替えよう、ね??お着物着るの時間いるし」 「ま、まゆりちゃぁん、ほたるとの対決の決着がまだ」 「いいからいいから、早く、早く」 そう言って、いつまでもぐずぐずしそうなあ母の手を引くまゆりに手を振るほたるは、ちょっぴり こっそりため息をついた。 「この調子なら、今年も多分平和だろうな……んじゃま、そういうけで〜一年の計は元旦にあり っていうし……」 |